ここにはいられない

「その場では何も言わなかった里奈が、家に帰ってきてから大泣きしちゃって『大地は私のことなんて全然考えてくれてない』『こんななら結婚なんてしたくない!』ってさ。俺も宥めるつもりがつい親の肩持つようなこと言っちゃって、それきりずっと険悪なんだ。表面的には普通なんだけど、なんていうか、空気が重い」

「それはやっぱり大ちゃんがちゃんと間に入った上で、里奈の味方になってあげないといけないと思うよ。ちゃんと話し合った?」

「・・・最近、帰ってない。実家にいる」

「・・・・・・」

うまくいえないけど、かなりよくない方向に向かっていると思う。
顔を合わせなければ、解決できるものもできなくなる。
時間が経てば経つほどこじれていく。

「帰った方がいいよ」

私に言えるのはこの程度。
元気のない大ちゃんは心配だけど、幸せになって欲しい気持ちもあるけど、全力で仲を取り持つほどまだ整理し切れていない。

できるなら、どこか遠く、私から見えないところで幸せになって欲しい。

大ちゃんの味方であるはずの千隼はお腹も満たされたようで、焼酎のお湯割りをのんびり飲んでいるけれど、「ふーん」と言ったきり。

白々しい笑いに包まれていた席は、その笑いすらなくなって沈んでいった。



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