ここにはいられない


反応がないので隣を歩く千隼を下からそっと見上げる。
こうしていると背の高い千隼の表情はいつもよく見えない。
特に今は暗い上に街灯の明かりで逆光になっているからほとんどただの影だ。
きっと千隼はいつもの無表情だろうと思っていた。

すぐそばを通った車のライトが、暗い道に強烈な明るさをもたらした直後、その名残で一瞬だけ千隼の顔がはっきり見えた。
それを見た驚きで、千隼の顔から目が離せなくなったけど、すぐにまた影に戻ってしまい確認することは不可能だった。

千隼は泣きそうな顔をしていた。
泣きそうなのにひどく優しげで、そんな不安定な表情が千隼の顔の上にあるなんて、ライトのコントラストが見せる錯覚なのかと思った。

次の街灯まではだいぶ間があって、ようやくたどり着いた頃には、やっぱりいつもの無表情がぼんやりとした灯りの中に見えるだけ。
だから千隼にそんな顔をさせた理由が何なのか、聞くことはできなかった。

そして千隼はたった一言、宙に放り投げるように言ったのだ。

「出会えたとして、叶うとは限らない」






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