今年の夏もキミを想う…。
辺り一面に立ち込める濡れた土の匂いに、宮崎が僅かに顔をしかめると、傘を揺らして振り返った彼女が、大人ぶったような顔でクスリと笑った。
「宮崎くん、人生は晴れの日ばかりじゃないんだから、雨だって楽しまなくちゃ損よ?」
何だか教訓めいているが、口にしている当の本人は、きっと深く考えてなどいないことなんて、長い付き合いで宮崎にはよくわかっている。
でもなんだか彼女のその言葉に、不思議と憂鬱な気分が少しだけマシになっていくような気がした。
雨自体を楽しむことは高度過ぎてまだできそうもないが、雨を楽しんでいる彼女を見て、一緒に楽しい気持ちになることなら、宮崎にも何となくできそうな気がする。
「あっ!和果子ちゃん」
彼女の華やいだ声に、僅かに傘を上向けて見れば、遠くの方に赤い傘がポツンと花開いていた。
「よくあれで和果子だってわかったな」
呆れ半分、感心半分でそう告げれば、彼女は振り返って得意げに笑ってみせる。
「人生経験の差が物を言うのかな」
何だかわけのわからない事を言って、得意げに胸を張っている彼女にムカついたので、宮崎は無言で僅かに歩調を早める。