今年の夏もキミを想う…。

逃げるように部屋を出て、廊下を早足で進んで台所についた和果子は、壁にぺたりと背中をつけてずりずり下がると、膝を抱えるようにして床に座り込む。

こみ上げてきた嗚咽を飲み込んで唇を噛み締めると、立てた膝に顔を埋める。

それでも抑えきれなかった涙が瞳に盛り上がってくると、腕のあたりをさわりと柔らかいものが撫でた。

驚いて顔を上げれば、いつの間にか隣に若様が座っている。

ふさふさした毛皮が触れるほど近くに寄り添って、つぶらな瞳で和果子を見上げ、その頬をペロリと舐めた。


「わかさまぁ……」


縋り付くように腕を回して、昔に比べてだいぶやせ細ったその体を抱きしめる。

こぼすまいと気を張っていた涙が、堰を切って頬を伝った。


「あのバカが…あのバカがあぁ……」


声を抑えてぐしぐしと鼻をすする和果子に、若様が慰めるように顔をすり寄せる。

そうしてしばらく、和果子の涙が収まるまで、一人と一匹は静かに寄り添い合っていた。





***
< 23 / 263 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop