俺様ドクターに捕獲されました
「まあ、うちの病院、経営状態が悪くなりつつあるって話でしょ? ドクターも不足してるし。宇佐美先生も大変だもんね。恋人に甘えたくもなるか」
シーツを抱えながら廊下に出ながらそう言った莉乃に、首を傾げる。今、経営状態が悪いって言った?
「り、莉乃。それって……」
「あ、噂をすれば宇佐美先生」
莉乃の声に顔をあげると、廊下の向こうから彼が歩いてくる。その隣には、やっぱり菊池先生がいて思わずムッとした顔をしてしまう。
ムッとしたまま彼を見ていると、私を見た彼の表情は驚くほどの変化を見せた。隣で莉乃も息を飲んだのがわかる。
「りい」
甘さの滲む声に、蕩けるような笑顔。先週までの塩対応が嘘のようだ。こちらに向かって歩いてくる彼を見て、莉乃は肩をすくめて耳元でささやく。
「うわぁ、眼福。すごいデレっぷり。すごいもの見ちゃった。里衣子、片付けしとくから。彼氏奪還しちゃいな」
「だ、奪還て……。でも、ありがとう」
ニコッと笑って離れていく莉乃と入れ違いに彼が私に寄ってきて、長い指が前髪に触れた。
「りい、髪が乱れてる。ケア、終わったのか?」
「う、うん。今日は飯嶋さんが手伝ってくれたから助かった」
「そうか、よかったな。そうだ、これから少し時間あるか? 柴田さんのところに一緒に行きたいんだが。ほら、恋人になった報告は一緒にしたほうがいいだろ?」
最後の部分を小声でささやいた彼に、コクリとうなずくとヨシヨシと頭をなでられる。