俺様ドクターに捕獲されました


懐かしい記憶を辿りながら、階段を上っていく。彼は、やっぱりそこにいた。屋上に出る扉の前にある階段に座り、顔を膝に埋めている。


「……りいか?」


ここまで来て彼じゃなかったらどうしよう、とビクビクしていた私は、名前を呼ばれてホッとした。よかった、幽霊とかじゃなくて。


「家族、きたか?」

「うん。菅谷先生が診断書は書いておくって」

「こっちにくるな」


彼に歩み寄ろうとした私は、彼の言葉に足を止めた。膝に顔を埋めたままの彼が、ぐっと自分の腕を掴んだ。


「頼むから、こないでくれ。もう少ししたら戻るから……りいは先に……」


そんな彼の言葉を無視して、私は彼に歩み寄った。そのまま彼の前にしゃがみこんで、彼の頬を両手で挟んで無理やり顔をあげさせる。


「……泣いてるの?」

「……っ、離せ」

「やだ」


ギロリと私を睨んだ彼の瞳が、キラキラ輝いている。


彼は、泣いていた。


濡れた頬を手で拭うと、瞳を揺らした彼が私から目を背けた。


「くるなって言ったのに」

「だって、泣いてると思ったから。優ちゃんも昔、こうしてくれたでしょ? それに、おばちゃんと約束したから。優ちゃんの隣にいるって。優ちゃんは、私が思うほど強くないから、支えてあげてほしいって頼まれたんだ」

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