俺様ドクターに捕獲されました


バスタオルを洗濯機に放り込みながら、また深いため息をついてしまう。


ああ、もう。仕事中なのにこんなこと考えて暗くなってちゃダメだ。気持ちを切り替えよう。


「ああ、ここにいたのね。セラピストさん」


洗濯機のある洗面所を出ようとした私は、その声に足を止めた。その人がパンプスの音を鳴らして一歩こちらに踏み出すと、緩く巻かれた髪がふわりと揺れた。


あの日、彼からした香水の香りが鼻につく。


「あなたに話があるの。少しいいかしら?」


悠然と微笑んだ彼女に、断る理由が見つからなくて戸惑いながらもうなずく。白衣のポケットに手を入れた彼女が、また一歩私に近づく。


「ねえ、あなた宇佐美先生の婚約しているのよね。病院の経営状況については聞いているの?」


婚約はしていないが、今度こそ菅谷先生の忠告を守りそこは否定しないでおく。


「……詳しくは、聞いていません。彼からは、なにも心配しなくていいと言われています」


そう答えると、彼女赤いルージュに彩られた唇が勝ち誇ったように綻んだ。明らかにバカにしている目を向けられて、昔の傷がジクジクと痛む。

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