俺様ドクターに捕獲されました
「へえ。宇佐美先生、あなたにはなにも話してないのね。まあ、そうよね。たかがセラピストさんじゃ、なにもできないものね」
その言葉を聞いて、ここ数日抱えていた思いが膨れ上がり、身体から血の気が引いていく。
ああ、この人も、知っているんだ。
どうして? 彼から聞いたの? 私にはなにも話してくれないのに、どうしてみんなそれを知っているの?
明らかに動揺する私を、彼女は嘲るように笑った。
「うちの父が、私たちの働いている大学病院の院長なのは知っているかしら? 宇佐美先生はとても優秀だから、父も彼のことを気に入っていてね。医師の派遣に尽力してもいいと言っているの」
カツン、カツンとヒールの音を鳴らして、彼女が呆然と立ちつくす私に近づいてくる。香水がきつく香り、思わず顔をしかめた。
「宇佐美先生が、私と結婚するというならね。ねえ、あなた……宇佐美先生と別れてくれない?」
「……え?」
「そのほうがいいと思わない? 私と彼が結婚すれば、この病院は守られる。でも、彼からはそんなこと言いにくいでしょうから。あなたから別れてくれない? そのほうが角も立たないでしょうし。ああ、もちろんそれなりの慰謝料は準備するわ。なんなら、新しいお相手も。父の部下にいい人がいるのよ。どうせ医者という肩書きに惹かれているんでしょう」
なにを言われたのか理解した途端、かあっと頭に血が上った。