俺様ドクターに捕獲されました
「別れません。私は彼を信じています」
「……そう。せっかく忠告してあげたのに、残念だわ。でも、きっと彼は私を選ぶわ。あなたじゃなくてね」
私を睨みつけてから、彼女は白衣を翻して背中を向けた。ヒールの音が遠ざかっていくのを聞きながら、その場にヘナヘナと座り込む。
彼女の言葉よりも、彼が私に話してくれないことをあの人が知っていることがショックだった。
私以外のみんなが、彼の抱える事情を知っている。私だけ蚊帳の外だ。関係ないと突き放されたことが、ここにきてジワジワと効いてくる。
「優ちゃん……あの人には、相談……してたのかな」
私のひとり言に答えてくれる人は、誰もいない。言いようのない不安が湧き上がり、苦しさが胸に迫る。
なにも話してくれないのは、あの人が言うように私がなにもできないから? 私は、あなたの力になれないの? あなたのそばにいていいの?
離れたくない。でも、それでこの病院がなくなってしまったら……。
もし、そうなってしまったら、それは私のせいなの? 私は、自分がした選択を後悔しない?
どうするのが正解なのかがわからなくて、頭の中がグチャグチャだ。
涙が出そうになるのを、必死にこらえる。今は仕事中なんだから、泣くわけにいかない。偉そうに啖呵を切ったんだから、迷っちゃいけない。
でも……。
ふと顔を上げると、迷子のような不安げな顔をした私が鏡に映っていた。重苦しい気持ちを抱えながら、私は次の患者さんのケアに向かうために歩き出した。