俺様ドクターに捕獲されました
「……行かなきゃ。最後の患者さん、待ってる」
彼女の言葉は、本当なのだろうか。
彼は……あの人を選んだの? でも……。
ふいに、柴田のおばちゃんの笑顔が思い浮かんだ。そうだ、約束したじゃない。隣にいるって。
今朝だって、優しい笑顔で魔法の言葉をくれた。楽しみだなって、笑いながらキスしてくれた。
彼を、信じよう。あんなの、嘘に決まってる。きっと、あの人の勘違いだ。
さっきまでの高揚した気分が嘘のようだ。拭いきれない不安を抱えたまま、準備をして今日最後の患者さんの元へ向かった。
* * *
不安が消えないまま仕事を終え、更衣室で着替えをする。着替えを終えて、更衣室を出ようとしたとき、鞄の中の携帯が着信を告げた。
相手は、彼だ。
嫌な予感に、胸の奥に冷たい塊が落ちた。彼の名前が表示されている画面を見つめて、ゴクリと唾を飲み込む。通話を押した私の指は、微かに震えていた。
「……もしもし」
『りい? 悪い、少し用事ができて……。予定より少し遅れそうなんだ』
告げられた言葉に、ヒュッと喉が鳴った。
菊池先生の言葉が脳裏をよぎり、身体から血の気が引いていく。携帯を持つ手が、小刻みに震え始めた。