俺様ドクターに捕獲されました
『終わったら迎えに行くから実家に……。りい? 聞いてるか?』
「……用……って、なに?」
『……ああ、別に。ちょっと野暮用』
ああ、まただ。そうやって私にはなにも教えてくれない。
彼がきちんと伝えてくれないことに、今まで内側に抱えてきた不安や憤りが膨れ上がって……外側に溢れ出た。
「ねえ、優ちゃん。私、優ちゃんにとって必要な人間なのかな」
『なに言ってるんだ。必要に決まってるだろ。なんで、そんな……』
「だって、優ちゃんは私になにも教えてくれないじゃない。病院のことだって、ひとりで抱えこんで。他の人は知ってるのに、どうして私だけ除け者なの? 今日だって、菊池先生に会うんじゃないの?」
『お前、なんで……』
やっぱり、そうなんだ。彼を信じようとしていた気持ちが、その一言で崩れ落ちる。胸の奥に落ちた冷たい塊が、全身を凍りつかせていく。
「あの人が教えてくれたの。今日、優ちゃんと彼女のお父さんと食事するって。それで、近々婚約するって言われた」
『あの女! りい、違う。お前、今どこにいる!?』
「……もう、いいよ。私じゃ、なにも助けられないんだもん。もう、いい」
なにも聞きたくなくて、彼の話を聞かないで電話を切る。そのまま電源を落として、小走りに病院を出た。
目に浮かんだ涙を拭いながら、とにかく病院から離れようとひたすら走る。