俺様ドクターに捕獲されました
「りい、おいで」
笑っているのに、目が笑っていないのが怖くて身体が震える。
こちらに向かって、真っ直ぐに差し伸ばされた手。それを取らないという選択は、すでに飼いならされていた私には存在しなかった。
フラフラとその手を取った私は、チョコをあげると約束していた男の子が彼の前に青い顔で立っていることに気がついた。
「俺の所有物に手を出そうとするなんて、いい度胸だな」
ぐいっと私の腕を引っ張って、不敵な笑顔でそう言い放った彼は、まわりにいたギャラリーを見回してダメ押しのように言葉を重ねた。
「こいつに手出したら、許さねえ。男でも、女でも、な」
ニイッと凶悪な笑顔を浮かべた彼が、私の腕を強引に引っ張って歩き出す。
それに引っ張られながら、振り返った私の目に飛び込んできたのは青ざめる男の子に近づく数人の男子生徒の姿。
その人たちは、仲がよかったのにある日突然、私を避けるようになった人たちだった。
その瞬間に悟ったのだ。彼らにも、この人がなにかをしたのだと。どうやら、私の様子を彼に逐一報告するスパイのような存在がまわりにいたらしい。
それ以来、また中学校でも腫れ物のように扱われるようになった。
もちろん、そのときにも不満を訴えたのだが、私は思いもよらない方法で黙らされた。
その次の日から、彼に毎日のようにお弁当を作らされ(中学は給食なのに)、放課後は当然のように拘束され、私の自由はほぼなくなった。
こうして、淡い青春の思い出となるはずだった出来事は、私にまたひとつトラウマを増やしたのだ。