俺様ドクターに捕獲されました
ここは、アロマサロン『Kanon』。
従業員数十五名のこのサロンで、私、天野里衣子(あまのりいこ)は働いている。
このサロンに勤め始めて三年が経ち、今年から副店長を任されるようになった。二十八歳、立派なアラサー。恋とは縁遠いが、なかなか充実した毎日を送っている。
私が仕事にしているアロマセラピーとは、精油と呼ばれる植物の成分を抽出したオイルを使った芳香療法と呼ばれる民間療法のことだ。
その歴史は古く、古代から香料や医療に使われていたといわれている。
『アロマセラピー』という言葉が生まれたのは二十世紀に入ってから。フランスの調香師が芳香という意味のアロマと、療法という意味のセラピーを組み合わせて作った造語だという。
今していたのは、トリートメントに使うオイルの調合。うちのサロンでは基本的にあらかじめ聞いた悩みに合わせた精油をセラピストが選び、その中からお客様本人に二本から三本選んでもらう。
選んでもらった精油をキャリアオイルといわれる植物油に数滴垂らしてマッサージオイルを作る。
ほんの一滴で香りが変わってくるから、何度やっても緊張する作業だ。できあがりの香りをイメージしながら、精油の量を調整していく。