俺様ドクターに捕獲されました
だけど、あの無慈悲な兄は携帯の電源を落としてしまったらしい。聞こえてきた「おかけになった電話番号は……」という無情なアナウンスに本気で泣きそうになる。
「どうしよう……」
トイレの個室の中で途方に暮れていると、持っていた携帯が突然鳴り出してビクリと身体が跳ねる。
落としそうになった携帯の液晶を慌てて見ると、そこには佳乃さんの名前が表示されていた。嫌な予感がしながらも、出ないわけにはいかず通話ボタンを押してそれを耳にあてる。
「も、もしもし……」
『ああ、よかった! 里衣子ちゃん、今どこにいるの? 宇佐美くん、怒鳴っちゃったんだってね。それで、逃げちゃったって聞いたけど、怖かったわよね。大丈夫?』
電話に出た途端、早口でまくしたてられて言葉に詰まる。でも、言わなくては。あの人の施術はできないって、はっきり伝えないと。
「あ、あの……私、やっぱり……」
『わかってるわ。里衣子ちゃんは、お仕事をすっぽかして逃げ出すような子じゃないもの。宇佐美くんが、悪いのよ。モテすぎて、女嫌いみたいなところがあるから』
「いや、佳乃さ……」
『でも、宇佐美くんも反省しててね。ぜひ、里衣子ちゃんにやってほしいって。最近、忙しくて大分疲れてるみたいだから。いつも足しかやらせてくれないんだけど、すごい足してるのよ。勉強になると思うから、よろしくね』