俺様ドクターに捕獲されました
「やべ、気持ちよくて寝そう……」
「いいですよ、寝ちゃってください」
むしろ、それが目的ですから。作戦その二、全力で眠らせる。
私のセラピストとしての技術すべてを持って、熟睡させてみせる。かなり疲労が溜まっているみたいだし、それも不可能ではないはず。
「終わったら、起こしますから。どうぞお休みください」
嘘だけど。がんばって眠らせた猛獣を起こすなんて、愚の骨頂。そんなこと、誰がするものか。
「ん、ダメだ……少し寝る」
そう言うやいなや、彼はあっという間に眠ってしまった。思わず心の中でガッツポーズする。
まあ、それも無理はない。こんな不健康そうな足の持ち主は、そういない。佳乃さんが勉強になると言っていた意味がわかった。
精油のブレンドも、香りよりも効果重視。疲労回復に特化したブレンドだ。いったい、どんな生活をしていたらこんなふうになるのやら。
早くも彼を眠らせるという目的を果たした私は、目の前のほぐしがいのある足に全神経を集中する。
気づけば夢中になっていて、はっと気づいたときには一時間が経過していた。
彼の様子を見れば、無防備な顔をして眠っている。規則的な呼吸音が聞こえるから、寝たふりなんかではなさそうだ。