俺様ドクターに捕獲されました
それを確認して、揺らさないように細心の注意を払いながらベッドから下りる。
彼の足の下に敷いたバスタオルの回収はあきらめよう。サロンの美品だが、そんな危険な橋は渡れない。忘れたことにしてしまおう。
自分の膝の上に乗せていたタオルで手についたオイルを拭って、それを鞄にしまう。
鞄のファスナーを閉めようとしたら、思いの外その音が静かな部屋に大きく響いた。焦ってベッドを振り返ると、彼はいまだ規則正しい寝息をたてて眠っている。
それにほっと息をついて、慎重に鞄のファスナーを閉めて、それと自分の荷物を抱えて忍び足で寝室を出て玄関に向かう。
よしよし、作戦は成功だ。とにかく、早くこのマンションを出なけれ……。
「残念だったな、りい」
突如、背後から聞こえてきた声に、ギクッと身体が強張る。いつも間に、近づいてきていたのか、その声はかなり近くから聞こえた。
だが、怖くて振り返れない。玄関の方を向いたまま、ガタガタ震える私の背中に硬いなにかが触れた。
「せっかく捕まえたんだ、逃すわけないだろうが」
耳元でささやかれた言葉に、心臓が止まりそうになる。身体の奥に響くその低い声は、へたなホラー映画よりもよほど私に恐怖を与えた。