俺様ドクターに捕獲されました
そのキスは、私が彼から離れる決意をした頃には今のような深いキスに変わっていった。
勉強の合間に、戯れのようにされるキス。私にとって、それはとても辛い時間だった。
今でも思い出すと、ひどく胸が痛む。だから、彼のことなんて忘れようとしていた。「俺以外とキスするな」という約束を、忠実に守ろうとなんてしていなかった。
だけど私は、今まで一度もまともな恋愛をしたことがない。
もうひとりの暴君……兄によって、そのチャンスはことごとく潰されてきたからだ。いいな、と思う人がいても、どうやって情報を得ているのかお付き合いに至る寸前で必ず邪魔される。
『俺よりハイスペックないい男じゃないと認めない。だいたい、俺がちょっと脅したくらいで離れていくような男はその程度の気持ちだったってことだろ?』
などと、一見妹思いのようなことを言っているが、一流大学を卒業し、公認会計士として働く兄よりハイスペックな男などそういない。
だいたい私は、そんな人は求めていない。普通の人と、普通に幸せな家庭を築くのが夢なのだ。
後者については、そうなのかもしれないけど……。
でも、お付き合いを始めようって段階であんな厄介な兄がいると知れたら私の望む“普通の人”は大抵逃げ出してしまうし、それも致し方ないと思う。