俺様ドクターに捕獲されました


支度を終えた彼女は、「来てよかったです」とうれしい言葉を残して帰って行った。


いつもこの瞬間、アロマセラピストになってよかったと心の底から感じる。いい仕事をしたという充足感で、今日一日の疲れも吹っ飛んだ。


これだから、この仕事はやめられない。誰かの役に立っていることが、私の自尊心を満たしてくれる。


ご機嫌で、片付けをしようと使っていた個室に戻り、使用済みのバスタオルやタオルをまとめて、明日のために新しいものを用意する。


使った器具の片付けをしていると、パタパタという足音とともにすごい勢いで扉が開いた。


「里衣子ちゃん、お疲れ様!」


中に入ってきたのは、『Kanon』のオーナーである、中野佳乃(なかのかの)さんだった。


三歳年上のなんともゴロのいい名前の彼女は、私の通っていたアロマの学校の講師をしていた。

そのときに、うちで働かないかと熱心に声をかけてもらったことがきっかけで、このサロンで働き出したのだ。


明るくて、屈託のない太陽のような佳乃さんを、私は人としてもセラピストとしても尊敬している。



< 6 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop