俺様ドクターに捕獲されました
支度を終えた彼女は、「来てよかったです」とうれしい言葉を残して帰って行った。
いつもこの瞬間、アロマセラピストになってよかったと心の底から感じる。いい仕事をしたという充足感で、今日一日の疲れも吹っ飛んだ。
これだから、この仕事はやめられない。誰かの役に立っていることが、私の自尊心を満たしてくれる。
ご機嫌で、片付けをしようと使っていた個室に戻り、使用済みのバスタオルやタオルをまとめて、明日のために新しいものを用意する。
使った器具の片付けをしていると、パタパタという足音とともにすごい勢いで扉が開いた。
「里衣子ちゃん、お疲れ様!」
中に入ってきたのは、『Kanon』のオーナーである、中野佳乃(なかのかの)さんだった。
三歳年上のなんともゴロのいい名前の彼女は、私の通っていたアロマの学校の講師をしていた。
そのときに、うちで働かないかと熱心に声をかけてもらったことがきっかけで、このサロンで働き出したのだ。
明るくて、屈託のない太陽のような佳乃さんを、私は人としてもセラピストとしても尊敬している。