俺様ドクターに捕獲されました
「でも、佳乃さんのお客様に私が満足してもらえるか……」
「なに言ってるの! 里衣子ちゃんの手は特別なんだから。私が惚れ込んだのよ。もっと自信もって! 私が一番、信頼しているセラピストなんだから」
スカウトされたときにも同じことを言われた。
あなたの手は特別だと。
自分ではよくわからないけれど、佳乃さんいわく、私の手は『セラピストになるために生まれてきたような手』らしい。
「里衣子ちゃん、一生のお願い! 帰りを遅くして悪いけど、ちょうど明日はお休みでしょう? 特別手当も出すから、お願いします!」
「……わ、わかりました」
必死すぎて土下座しそうなほどの勢いの佳乃さんに押されて、私はついうなずいてしまっていた。
そして、このときうなずいてしまったことが、私の運命の分岐点だった。
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「こ、ここ……?」
佳乃さんに渡された住所を見て、辿り着いた場所を見上げる。これは、タワーマンションというやつですよね。
下から見上げていると首が痛いくらいなんですけど。
しばらくそうしていたが、口を開けてその建物を見上げていた自分がかなり間抜けなことに気がついて、慌てて首を元の位置に戻す。