俺様ドクターに捕獲されました
「りいの小さい頃の夢は、花屋だったな。ずっと花屋になるって言ってた。それを看護師に塗り替えたのは、俺だ」
そういえば、そうだった。小さい頃から花が好きで、お花屋さんになりたいって言ってた気がする。
それを、彼が塗り替えた?
「俺が、りいに看護師になれって言ったんだよ。別に花屋でもよかったけど、お前がおかしなこと言うから……。素直なりいは、それにうなずいて看護師になったんだ。俺のわがままで、りいにそんな辛い思いをさせてたなんて、知らなかった。ごめん」
それは私が逃げ出したからで、謝られることではない。最終的に看護師を目指すと決めたのは自分自身だ。
「優ちゃんが謝ることじゃないよ」
「いや、そばにいてやれたら、違っただろ。りいは優しくて、感受性が人一倍強いから。割り切ることもできなくて、苦しかったんだよな」
ポロリとこぼれた涙を、彼の親指が拭ってくれる。その手が優しくて、胸の奥がギュッと痛くなる。
「医療従事者なら、誰もが通る道だな。俺だって、いまだに悩むこともあるし、落ち込むことだってある」
「優ちゃんが?」
「りいは本当に、俺をなんだと思ってるだろ。人間なんだから、そんなのあたり前だろ。消化器外科は手術も多いし、癌疾患も多い。日々、自分の無力さを感じてるよ。そう感じるからこそ、ひとりでも多くの命を救えるように努力してる。むしろ、そういう気持ちがないならこの仕事は務まらないだろ。だから、りいが看護師に向いてなかったわけじゃない」