俺様ドクターに捕獲されました


うわ、近く通るの嫌だな。最初の印象もあって、私は彼女のことがとても苦手だ。できることなら、顔を見ずにやりすごしたい。


そうは思っても、看護師さんのケアやリハビリの邪魔をしないようにスケジュールを組んでいるから時間がない。


仕方なくそのまま進んでいくと、彼の目が私を捉え、すぐに逸らされた。私も特に話しかけたりせず、ペコリと会釈だけして彼の横を通り過ぎる。


すれ違う瞬間、菊池先生が私を見てクスリと小さく笑った。なんだかバカにされたような気がして、いたたまれない気持ちになり小走りにリネン室に駆け込む。


抱えていたシーツを使用済みのカゴに放り込んで、手浴に使うお湯の準備をしようと洗面所に向かう。


洗面器にお湯を張りながら、ふっと鏡に映る自分を見た私は愕然とした。


髪は乱れ、汗をかいたせいで化粧は落ち、ほぼスッピンになっている。動き回っていたいたせいか、額と頬が赤くてなんとなくマヌケな顔だ。


これじゃ、バカにされても仕方がない。髪も化粧も服装も、一分の隙もないほど美しく着飾った彼女の姿を思い出し、なぜだかみじめな気持ちになる。


それに、あの人のあの目。あの目が、すごく嫌だ。思い出したくない過去の記憶まで甦って、胸がズキズキと痛む。


彼も彼で、会釈くらいしてくれればいいのに完全無視って……。塩対応がすぎませんか?


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