俺様ドクターに捕獲されました
たしかに、病院では仕事に集中したいから極力近づかないでとお願いしたのは私だ。
また変ないちゃもんをつけられるのも嫌だし、ただでさえ見る目が厳しい。余計な火種になりそうなことは極力避けたかった。
彼も、不満そうな顔をしながらも理解をしてくれたのだが……。最近、病院ではほとんど目も合わせてくれなくて、それを少し寂しく感じる。
だけど、自分からお願いした手前、そんなことを言えるわけがない。
だいたい菊池先生だって、私にあんなこと言ったくせに彼との距離が近い気がするんですけど。
彼だって、嫌がる様子もないから満更でもないんじゃないの。そうだよね、昔からああいう綺麗な女の人を隣に侍らせてたもんね。
イライラしながらお湯の入った洗面器を持ち上げると勢いが良すぎたのか、床にお湯がこぼれてしまった。
「ああ、もう」
それを拭きながら、はあっと大きなため息をつく。
最近、こんなことばかりだ。彼と過ごす時間が増えるごとに、心の乱れが大きくなっていく。
ダメだ。今は仕事中なんだから、気持ちを切り替えないと。ペチペチと頬を叩いて、数回深呼吸をする。
今度はこぼさないように慎重にお湯の入った洗面器を抱え、田村さんの待つ病室に戻った。