俺様ドクターに捕獲されました




* * *



「はい、終わりですね。すごい、だいぶ動くようになりましたね」


手についた余分なオイルを拭き取りながらそう声をかけると、田村さんはうれしそうに笑った。


「いやぁ、天野さんのおかげだ。全然開かなかったのにな。すごいなぁ」


私がケアに入った頃、田村さんの右手は握った形のまま開かない状態だった。


それが手浴と、筋肉を緩める効果のあるラベンダーとマージョラムを使ったマッサージで段々と手が開くようになってきた。


今まで開かなかった手が開くようになったからか、リハビリにも意欲的になってくれたようでいい相乗効果が出ている。


「私は、ちょっと手助けをしただけですから。田村さんがリハビリをがんばってるからですよ」

「そうか? そう言われたら、もっとがんばっちゃうな」

「失礼しまーす。あ、こんにちは」


そんな話をしていたところで、ちょうどリハビリ担当の理学療法士である井坂さんが病室に入ってきた。


「こんにちは。ちょうど、ケアが終わったところなんです」

「それはグッドタイミングでしたね。じゃあ、今日もがんばりましょうね、田村さん。……ところで、天野さんて……」

「はい?」


田村さんにリハビリ用の靴を履かせながら声をかけてきた彼に視線を向けると、ニコッと爽やかな笑顔を向けられる。

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