俺様ドクターに捕獲されました
「いつも顔真っ赤にしてがんばってましたもんね。じゃあ、飲み会の件考えといてくださいね」
うわ、それってさっきのちょっとマヌケな赤ら顔だよね。そんなところ見られてたんだ。は、恥ずかしい……。
「は、はい。田村さん、リハビリがんばってくださいね」
恥ずかしさを笑顔でごまかしながら、患者さんに声をかけて私はその場を離れた。
手浴に使った洗面器を片付けようと洗面所に入った私は、心臓が止まりそうなほど驚いて持っていた洗面器の中身をぶちまけそうになった。
誰もいないと思っていた洗面所に、不機嫌そうに腕を組んだ彼が立っていたからだ。
「び、びび、びっくりした。こ、こんなところでなにしてるの?」
危うく上げそうになった悲鳴を必死に飲み込んで、動揺しながら洗面器を置くと、彼の手が私の腕を掴んだ。
「いっ!」
痛いくらいに強く掴まれて、小さな悲鳴が口から漏れる。
「ちょっとこっちに来い」
そんな私を気にもせず、腕を引っ張られて洗面所の奥の洗髪台のあるスペースに身体を押し込まれる。
「……っ!」
あまりの力強さに抗議しようと顔をあげた私は、思っていた以上に近くにあった彼の顔を見て動きを止めた。
無表情に私を見下ろすその瞳は、恐ろしいほどに冷たい。あまりの冷たさに身体がすくむ。