俺様ドクターに捕獲されました
今まで何回もしてきたキス。でも、こんなキスは、知らない。こんな、呼吸さえも飲み込んでしまうようなキスを、私は知らない。
どのくらいそうしていたのか、突然鳴り始めた彼の院内PHSの音で唇が離れた。チッと舌打ちをした彼が、PHSを耳に当てる。
「はい。……ああ」
肩で息をしながらズルズルと床に座り込んでしまった私を見下ろした彼は、息ひとつ乱さずに受け答えをしている。
「わかった、すぐ戻る。……時間切れだ。思い出したか? お前が、誰のものなのか」
腕を引っ張って私を立たせた彼の目には、いまだに激しい炎が揺らめいている。それが怖くてたまらなくて、私は小さくうなずいた。
それを見て彼は、満足げな笑みを浮かべてチュッと額にキスをする。
「思い出したなら、他の男に隙を見せるな。わかったな」
彼が洗面所を出て行ってからも、私はそこに立ちつくしていた。
心臓が、すごい勢いで早鐘を打っている。よろめいた身体に、堅い壁がぶつかった。
なぜ、いきなりあんなキスをしたの? 私が、理学療法士さんと話してたから?
彼だって、あの女医さんと仲よくしてたじゃない。私はダメで、自分はいいの?
いつもそうだ。自分のことは棚に上げて、私のことばかり縛りつけようとする。