俺様ドクターに捕獲されました
病室に広がるその香りに、おばちゃんは「いい香り」と目を細めた。
「私は子宝に恵まれなかったから、近所の子をみんな我が子のように思ってた。なかでも優くんは、一番の問題児ね。本当は優しい子なのに不器用で、言葉が足りなくて。いつかそのせいで大切なものをなくしてしまうんじゃないかって、ハラハラしてたわ。本当に、うちの亡くなった主人にそっくり」
「足からマッサージ、始めるね。そうなの?」
手にオイルをつけて、足を力を入れすぎないようにマッサージしていく。そんな私を見つめるおばちゃんの目は、とても優しい。
「そう、うちの主人もね。とても不器用な人だった。プロポーズもなかったし、好きなんて言われたこともなかった。その分、態度で示してくれてはいたけれど、女っていうのはそれよりも言葉がほしいわよね」
ふふふっと笑ったおばちゃんは、ゆっくりと私に手を伸ばし腕をなでた。
「優ちゃんも、言葉がない分態度で示してるはずなんだけどね。でも、里衣子ちゃんが望むなら、聞いてみたらいいわ。きっと欲しい言葉をくれるから」
パチンと私にウィンクするおばちゃんに、私は曖昧に微笑む。それから、ふいに気になったことをおばちゃんに訪ねた。