俺様ドクターに捕獲されました


「おばちゃんは、旦那さんに聞いてみたことあるの?」


「あるわよ。小さなことで喧嘩になったときに、『私のことなんて愛してないんでしょ』って怒ったら、『愛してるに決まってるだろ』って、真剣に怒られたわ。言ってくれたのは、その一回だけ。でも、それだけで充分だった。私には、“魔法の言葉”だったわ」


「“魔法の言葉”か。なんか、素敵だね」


足のトリートメントを終えて、無理がないように横を向いてもらい背中のトリートメントをする。


「ああ、気持ちいい。里衣子ちゃんにマッサージしてもらった日は、とてもよく眠れるのよ」

「本当? なら、よかった」

「私は、幸せ者ね。こないだね、尊くんもお見舞いに来てくれたの。地元に残ってる子は、時間があるとちょこちょこ来てくれるの。優くんが、声をかけてくれたのね。私ね、病気がわかったとき、優くんの前で泣いてしまったの」

「え?」


思いがけない言葉に、つい手を止める。背中を向けているおばちゃんの表情はわからないが、照れくさそうな小さな笑い声が聞こえた。

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