俺様ドクターに捕獲されました


「私は、主人も亡くしているし、子どももいないでしょう。身の回りのことは、妹夫婦が面倒を見てくれているけれど、あっちにだって自分たちの生活があるから、そう頼ってばかりはいられないし。私ね、怖かったのよ。死ぬことより、ひとりで逝くことが怖かった。だけどね、優ちゃんが言ってくれたの。『俺が看取る。絶対にひとりで逝かせない』って。あれも、“魔法の言葉”だったわ」

「……おばちゃん」


それを言ったとき、彼はどんな気持ちだったのだろう。日々、己の無力さを感じていると話していた彼。


どれだけの覚悟を持って、その言葉をおばちゃんに伝えたのだろう。


「だから、今は怖くないわ。こうやって、里衣子ちゃんにも会えてマッサージまでしてもらって。なにより、あなたが優ちゃんのそばにいてくれていることがうれしい」


それが、どういう意味なのかを聞くことができなくて口を噤む。しばらく、無言の時間が続いた。


背中のトリートメントを終え、仰向けに戻ったおばちゃんが真っ直ぐに私を見つめた。


「ねえ、里衣子ちゃん。もしものとき、私を看取る優くんの隣にいてあげてもらえないかしら」


おばちゃんの痩せ細った手が、私の手に重なる。そして、私が好きな、ひまわりのような笑顔を浮かべた。


< 97 / 197 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop