俺様ドクターに捕獲されました
好きだから、離れることを選んだ。
私に鎖をつけながら、他の女の人の隣で笑う彼なんて見たくなかった。
なのに、神様は残酷だ。なんの因果が、私は彼と再会してしまった。
そして、また思い知らされる。私は彼の“特別”なんかではないのだと。
夕日に照らされた、ふたりの姿が脳裏に浮かぶ。
彼の首に回っていた、白い腕。彼の腕は、彼女の華奢な腰をしっかりと支えていた。抱き合うふたりは、とてもお似合いの恋人同士に見えた。
思わず自嘲的な笑みが口から漏れる。なんて滑稽なのだろう。身の程を知れと何度も自分に言い聞かせて来たのに、結局私は同じことを繰り返す。
「もう、やだ。逃げたい……」
ひとりではどうすることもできないくせに、傷つくことだけは一丁前だ。逃げることばかり考えている弱虫な自分が、本当に嫌になる。
仕事の繋がりもできてしまった今、そんな無責任なことはできはしないというのに。
これは、あのとき逃げてしまったことの代償なのだろうか。
「……っふ」
ポロリとこぼれた涙が、抱えているタオルにシミを作る。
不格好な形のそれが今の自分に重なって、どうしようもなくみじめになった。