禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~【試し読み版】
神々しい朝の光が窓から射し込む。
ヘレンはベッドから立ち上がり大きく伸びをすると、部屋の窓を大きく開いた。
さぁっと爽やかな風が吹き込んで、ヘレンの長い髪をさらう。波のようにゆらめく髪は、朝日を受けて黄金色にキラキラと輝いた。まるで朝の光と一体になってしまったかと見紛うような、見事なブロンドだった。
「いいお日様。きっと、今日はいい日になるわ」
朝の清涼な空気をいっぱいに吸い込み、ヘレンは空を仰ぎ見る。
「ヘレン様、お目覚めですか?」
部屋にノックが響き、侍女のエイダがそっと扉を開いた。ヘレンがすでに起きているのを見つけ、中へと入ってくる。
「おはようございます。お早いお目覚めですね」
「おはよう。だって今日は待ちに待った日だもの。楽しみで一番鶏より早く目が覚めちゃった」
そう答えるヘレンの顔は本当にうれしそうだ。まるで無垢な子供のようである。
「さあ、早く支度をしなくっちゃ。とびきり恰好よく装って、兄様をびっくりさせるんだから」
窓から体を翻すと、ヘレンは着ていた夜着を自分の手でさっさと脱ぎ捨ててしまった。
つい先月、社交界デビューを果たしたばかりだというのに、ヘレンの淑女らしからぬ行動にエイダはあきれたような声をあげる。
「まあ、まあ! お着替えは侍女をお使いくださいと、いつも申し上げておりますのに」
「いいのよ。だって今日からはドレスとはお別れだもの。ペティコートもコルセットも、もういらないわ」
用意された男物の上衣であるダブレットに袖を通しながらヘレンが言うと、エイダは少しだけ悲しそうな顔をした。
「……やはり寂しいですね。ガーディナー家のご息女とはいえ、私はやはりヘレン様にはドレスを着続けてほしかったです。普通の伯爵令嬢として華やかに着飾り、舞踏会に参加し、いつかは素敵な男性と普通の幸せを手に入れていただきたかったです」
「エイダ……」
しんみりとした雰囲気が部屋に漂い、ヘレンも刹那寂しくなってしまったけれど、すぐに明るい声を出す。
「エイダったら、私は最高に幸せよ。だってずっと夢に見ていた王家の騎士になれるんだもの。それに、お城に行ったらずっと兄様と一緒なんだから。こんなに幸福なこと、ほかにはないわ」
その言葉に偽りはない。王家の騎士になりたいとヘレンが幼い頃から言っていたことは、この屋敷に仕えている者なら誰もが知っている。けれど、それでも夢が叶ったことをエイダは喜べないのだった。