禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~【試し読み版】
訓練所へ向かうルークに、すれ違った人物が皆、恭しく頭を下げる。兵士はもちろん、文官の官僚貴族までもだ。
ルークが最高位の武官ということを考えれば当然ではあるが、それ以外にも彼が敬われるのには理由があった。
デュークワーズ王国の国家君主は、二年ほど前に王が病で急逝し代替わりした。現在、戦火に喘ぐこの国を奮い立て民を導いているのは、二十歳の若き女王プリシラ・ウォーレン・オブ・デュークワーズである。
ルークに将軍の地位を与え、第一騎士団団長と近衛連隊隊長に任命したのは、即位後すぐのプリシラだった。
彼女はルークに厚い信頼を寄せていた。君主に忠実な彼は、この城の誰よりも誠実だ。武術の腕に長けているだけではなく、冷静で理知的でもある。
早くに母を亡くし兄弟もいないプリシラは、父を亡くした現在、天涯孤独である。
彼女には心の支えとなる人物が必要だった。戦争の憂き目にある孤独な女王が、頭の固い老大臣たちより、ルークをそばに置きたがったのも当然だろう。
そしてそこには、主従以上の感情があったとしても不思議はない。
王家の血を引く最後の生き残りとなったプリシラは、早急に子を成す必要がある。けれど、ギルブルクの侵攻によって傾きかけているこの国と婚姻を結んでくれる酔狂な国はない。
プリシラの結婚相手がこの国の男から選出されるのは必然で、白羽の矢が誰に向けられているかは、もはや自明だった。
国を、女王を守護する騎士として、そして王家の血を守る婿候補として、ルークの若い背中は国中からの信頼と期待を背負っている。
消えゆくこの国をどうか守ってくれと、人々はあきらめと希望を織り交ぜた瞳で彼をこう呼んでいた。
『亡国の守護騎士』と。