空高く、舞い上がれっ。
好きと言える喜び
「カツ丼が食べたい」
お殿様、何でもお申し付けください。と、小声で輝空くんが頭を下げたのは金曜日の3校時の授業中。
「は?購買のカツ丼でいいの?」
「やだ‼殿はカツ吉のカツ丼が食べたいんじゃ~‼」
机の下の足をバタつかせてだだをこねてみせる。
「カツ吉は高いからラーメンにして‼」
両手を合わせる輝空くんはなかなか面白い。
この前の総体で、わたしの部は団体戦の関東大会出場が決まった。
「はぁ~、指切りなんてしなきゃよかった」
過ぎたことは悔やまない♪と、わたしが肩をポンポンたたくと、お前は調子いいやつだなぁ。と輝空くんが笑う。わたしもつられて笑った。
「じゃあ、土曜日は日帰り遠征だから日曜日‼空けとけよ」
「え!?ほんとにいいの?」
「約束は約束だからな」
わーい‼と、喜んだその時。
「まぁーたお前らかぁー‼歩舞、教科書次のところ読め‼」
小声だったはずがいつの間にか大きくなっていたらしく、日本史の教師に怒鳴られてしまった。輝空くんはそんなわたしを見て、アホじゃん♪と馬鹿にしたように笑ったけど──
「輝空‼お前もその次を読んでもらうからな」
教科書に隠れて小さく縮こまった。
日曜日の約束。
こんな展開を、わたしは心のどこかでずっと前から待ち望んでいた気がする。