空高く、舞い上がれっ。
何をしていてもどこにいても思い浮かんでしまうのは、輝空の大切さを痛いほど思い知ったから。
あの人なしではわたしは息が出来ない。そう言って泣いてばかりだ。

人でにぎわう中庭の、焼きそばを焼くソースのいいにおい。サイダーの中のフルーツポンチ。手動で削る、途中で機械の壊れてしまったカキ氷屋。少し、音の外れたバンドの演奏。
すべてが鮮やかな色だから日陰に入って休みたくなる。


「おばちゃん‼お届け行ってきてくれる?」

そう言ってクロはわたしにドライフラワーの花束を差し出す。それを受け取り、クラスのテントから日向へと出た。


学園祭は、ステージ発表の点数、作り上げた学級旗の評価、腕相撲大会などミニゲームの成績、クラスごとに出す屋台の人気率を総合して順位が出されるようになっている。

わたしのクラスの屋台はお花屋を開店することになった。変わったことがしたい‼と、声を張り上げた寧音の意見のせいで……

「愛のメッセージをお届けでーす」

そんな臭い台詞とともに屋台で購入した花を手紙とともに送るサービスをすることになった。

恥ずかしいけど……「ありがとう‼」と、言われると嬉しくなるものだ。

花束を抱きしめる女の先輩に一礼をして、その場を立ち去る時ふと振り返ってみると……男の先輩がその女の先輩の頭を優しくなでていた。
その姿が自分と最愛の人に……




「歩舞ー‼おかえり」

ただいま。と、テントの下で販売を行っていた寧音に返事をしたわたしに、寧音はヨシヨシと肩をさすって涙を拭いてくれた。

太陽の陽射し、べたつく汗、階段で寄り添う恋人の姿、ひと筋の飛行機雲。

輝空のゲタ箱の奥に、わたしはこっそり小さな花の咲いたサボテンと手紙をいれておいた。
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