空高く、舞い上がれっ。
果てなく思いを巡らせると、また熱がのどまで込み上げて耐えようと唇をかみ締めた。
教室へ戻ろうと職員室のドアを開ける。

──ドンッ

「わっ……」

その時、職員室へ入ろうとした人とぶつかり、その人は衝動でよろけたわたしを支えてくれた。
黒く焼けている腕を見て一瞬、あの夏の日が頭を過ぎる。

「……歩舞」

「……」

声が、出ない。

「……これ」

ちゃんと言おうよ、わたし‼


「……買っておいたから」

自分の意気地のなさが、悲しく惨めだ。
それ以外は何も言わず、手にしていたオレンジシャーベットを渡す。
輝空も、何も言わずにそれを受け取った。

「それじゃあ……」

目に溜めたものを見られないように、急いでその場を立ち去ろうと足を踏み出し、輝空の横を通った。


──……歩舞‼

恐る恐る、振り返る。

「……ありがとな」

「うん……」

輝空は、わたしの返事を聞くと職員室へ入って行く。
それ以外、本当に何もしゃべらなかった。ううん。しゃべれなかった、と言った方が正解に近いかもしれない。

わたしを呼ぶ声、優しい目、いつもの輝空だ。そんなの反則だよ。

苦しくて、苦しくて。
わたしは全速力で長い廊下を駆け抜けた。
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