空高く、舞い上がれっ。
ーーー
ーー

「おい、ぼさっとすんなー。さっさとワックスかけちまわないと日が暮れるぞ」

ジャージ姿で廊下の先を見つめていたわたしを、部の男子部長がモップの柄の部分で背中をつつく。

「やってますよー」

持っていたモップを握り直す。
そろそろ始まる夏休みに備え、教室や廊下にワックスを掛けていた。

ほとんどの生徒は強制下校し、学校の清掃行事は普通なら環境美化委員と遅刻常習犯の仕事なのだが。
顧問の先生の方針で剣道部も毎回参加をしていた。

「こっち側は私がやるから歩舞はそっち半分やってね」

美千代に同意し、廊下を二人で磨きあげる。

いつも何気なく歩く廊下。こうして少しずつ磨き上げて進むと案外長い距離だな、と気づく。

窓の外には下校していく友人たち。
その中に肩を並べて歩く咲と直央の姿を見つけた。

『寂しくない……っていったら嘘になる。でも、そうやって……』

ふと、咲の言葉を思い出した。

“そうやって……”
その言葉の続きにはいったいどんな言葉があったのだろうか。



「お疲れ様です。明日の稽古もいつも通りの時間から……」

わからないまま、一学期の残りの時間は過ぎていった。
< 210 / 268 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop