空高く、舞い上がれっ。
9回裏、4点を追っていた。
“重たい風向きだ”
“もうだめじゃーん”
どこからかそんな言葉が飛んでいた。
寧音は睨みながらその声の主を探そうと一度後ろを振り返って前を向き直す。
わたしはずっと手を組んで、祈るように輝空を見ていた。
輝空は、わたしと別れてから数ヶ月は不調な日々を過ごしていたらしい。
練習試合ではエラーが目立つようになり「勝負どころでミスをする。お前らしくない」と、監督の厳しい注意も多くなったらしい。
そしてスタメンから外れた。
それからの練習後は居残って1日千回以上、バットを振った。しかし、調子は相変らずだったそうで……
それでもバットを振り続けた輝空。
そして春の選抜予選。輝空は捕手として立ち上がった。「絶対に打つ」と。
そのことをわたしは輝空から聞いたわけではないが、風のたよりに知る輝空の姿はわたしの元気のモトだった。
ユニフォームの胸のあたりを握り締めて輝空が打席に立つ。
真剣な姿。わたしの目には涙が溜まっている。
キ――ン──……
相手ピッチャーの投げた球は輝空の振りかぶったバットと共鳴した。