空高く、舞い上がれっ。
「雨の中なら、泣いても誰もわからないよ」

繋いだわたしの右手と輝空くんの左手。
もう片方の手を左手で握りしめた。
髪の毛も、制服も。靴や靴下も、全て雨の中に溶け込んだ。

これだけ濡れたら、後は何も失うものはないでしょう?涙は雨が隠してくれるから、声は雨音に消えるから。

一瞬、輝空くんが弱音を表したような気がした。それから両手をわたしの頬へ持っていく。わたしの手はその両手を包み込んでいる。
輝空くんは目をつむり、オデコをコツン、と合わせた。

「……ありがとな」

その小さい言葉はどこか震えていたようだった。

「……俺」

“──野球やめたい”


「え……」

驚いて輝空くんの顔を見ると、両手をポケットに入れて上を向いている。

「監督に、A軍に入れって言われたんだ……」

一瞬、輝空くんが何を言ったのか理解が出来なかったわたしに、少し間をあけてから野球部について説明をしてくれた。
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