空高く、舞い上がれっ。
「スキー教室の時は……素直になれなくて……でも、これがわたしのほんとの気持ちだよ。隠しててごめん……」

莉華は言い返してこない。

言葉がうまく選べない。
それでも、今伝えなければ二度とわたしは笑えないような気がした。

「莉華に見せ付けようなんて思った事、一度もない。それだけは……」

信じて……‼


ずいぶんと時間の流れが遅く感じた。
何も言わずローファーをはき始めた莉華の姿を、わたしはただ見つめていた。
そのまま、莉華は振り向かずに歩き出し去ってゆく。

苦しくて、わたしは下を向いた。
もうだめなのかな……こんなことで、わたしは莉華と仲悪くなんてなりたくない──……


「最初に、ちゃんと言ってほしかった……」

「え……?」

不意打ちのような小さな声。
こんな小さい莉華の後ろ姿は初めてだ。

「ピカチャンのこと、好きなら……そう言えばよかったじゃん……」

「ごめん……」

さっきまでの燃え盛る炎は、いつのまに消火されたのか。静かな玄関では、莉華の喋る一文字一文字が響いて聞こえる。

「……あたしは、応援しないから。絶対‼」

「……わかってる」

それから莉華は、一度も振り返らず帰っていった。

わたしが伝えたかったこと言いたかったことはたくさんあった。けれど、わたしが言った言葉はその十分の1にも満たなかった。莉華にはどのくらい伝わったのだろう。
< 82 / 268 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop