初恋ホームラン
*
あれは、……いつだったっけ。
遠い夏の日。
私は……9歳くらいだったかな。
幼かったあの頃の、小さな思い出。
お父さんがプロ野球ファンだっていうのもあって、札幌のドームで野球の試合を観ていた。
私やお母さんは、ただお父さんに連れられて見に観ていただけだけど、それでも十分楽しんでいた。
やたらと暑い日だったのを覚えてる。
札幌だっていうのに暑くて暑くて、持参したペットボトルのお茶はすぐにからっぽになっていた。
追加でお茶を買いに行くと言うお母さんの背中に着いて行って……
そのまま、私は迷子になった。
「おかあさーーん!! おとうさーーん!!」
どこーー?! と声を張り上げて2人の姿を探しても、何万もの人の中にたった2人の知り合いを見つける事は、不可能に等しかった。
しかも騒々しいドーム内では、大人の声も通らないのに、子供の声が届くはずがない。
座っていた席も覚えてないし、どこに行けばいいのかもさっぱり……。
泣きそうになりながら、きょりきょろ辺りを見回していると。
「……お前、迷子?」
突然かけられた、不機嫌そうな声。
でも、多分、子供の声。
くるっと振り返ると、そこには、見知らぬ男の子がいた。