初恋ホームラン



*



あれは、……いつだったっけ。


遠い夏の日。


私は……9歳くらいだったかな。

幼かったあの頃の、小さな思い出。


お父さんがプロ野球ファンだっていうのもあって、札幌のドームで野球の試合を観ていた。

私やお母さんは、ただお父さんに連れられて見に観ていただけだけど、それでも十分楽しんでいた。


やたらと暑い日だったのを覚えてる。

札幌だっていうのに暑くて暑くて、持参したペットボトルのお茶はすぐにからっぽになっていた。

追加でお茶を買いに行くと言うお母さんの背中に着いて行って……


そのまま、私は迷子になった。






「おかあさーーん!! おとうさーーん!!」


どこーー?! と声を張り上げて2人の姿を探しても、何万もの人の中にたった2人の知り合いを見つける事は、不可能に等しかった。

しかも騒々しいドーム内では、大人の声も通らないのに、子供の声が届くはずがない。

座っていた席も覚えてないし、どこに行けばいいのかもさっぱり……。

泣きそうになりながら、きょりきょろ辺りを見回していると。



「……お前、迷子?」




突然かけられた、不機嫌そうな声。

でも、多分、子供の声。

くるっと振り返ると、そこには、見知らぬ男の子がいた。


< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop