彼は高嶺のヤンキー様4(元ヤン)
気づかなかった。
「凛、遅かったわね。どうだった塾は?」
「学力のある友達と、仲良くなれたか?」
「・・・うん!」
ヤマトの家で着替えて、遅く帰宅した両親は、私の右手の異変に気づかなかった。
「良い先生だったでしょう?口コミ評判が良いんだから。」
「お金の心配はしなくていいぞ。いい大学に入るため、それに見合う友達を学校以外でも作らないとな~」
それよりも、塾のことや、そこに通う子達のことを聞く。
「勉強できそうで、人のよさそうな子はいた?」
「仲良くなれそうな、教え上手な子はいたか?」
利用できそうな子はいたかどうか。
「塾、通ってみるでしょう?」
「勉強した者の勝ちだからな。」
「そうだね・・・行ってみる・・・」
「じゃあ、申し込みしないとね!早く書類を書いちゃいなさい、凛!」
「その前に、夕食だろう?腹が減っては、凛も戦が出来ないじゃないか?」
「すぐ書くよ、お母さん。夕食は・・・塾の子達と食べてきたからいいよ、お父さん。」
笑顔で良い子を演じて答える。
「私緊張して疲れたから、もう休むね。」
「凛、お風呂は?今日、暑かったでしょう?」
「朝シャンにさせて。その方が、朝の勉強もはかどるから。」
「そう・・・?それじゃあ、そうしなさい。」
子供の言葉を疑わない親。
嬉しいことだけど、内容はむなしいばかりだった。
(・・・・さてと。)
部屋に入ってすぐに音楽をかける。
渕上ルノアの盗聴器があるのはわかってる。
監視カメラはないとはいえ・・・油断は出来ない。
学習机の引き出しを開き、カッターを取り出す。
机に動かない右肩を押し付け、動く左手で封筒を切る。
出てきた紙きれを、左手で取り出してみる。