赤ずきんの秘密の感情
突き出したまま、男の子……弦は受け取ろうとはしない。
そのままじっとしていると、弦が私の手をそっと掴んだ。
「ちゃんとお婆さんに顔見してあげて。ずっと来るの待ってたから」
「……」
「きっとその中に入っているものをお婆さんは楽しみにしてるんじゃないかな。俺は下で待ってるから」
そういって手を離して慣れた足取りでリビングへと行ってしまった。
階段に取り残された私は持っていた鞄をゆっくりと下ろす。
……なんなんだろうこの状況。
ふぅっと息を漏らすと髪が垂れてきた。
強くその髪を帽子の中へと入れ、階段を登り出す。
おばあちゃんの部屋の扉を小さく叩いてコソコソと入り込む。
音を立てずに部屋の扉を閉めると、おばあちゃんの元へ。
私の気配を感じたおばあちゃんはとびきりの笑顔を向けた。
「遠い所わざわざ来てくれたのね、赤ずきん」
「……紅だよ。おばあちゃん」
「ふふふ。その帽子を被っている間は、私の中ではずーっと赤ずきんのままだよ」
椅子を持ってきてベッドで横になるおばあちゃんに近づくと、おばあちゃんが帽子の上から頭をポンポンと撫でるように叩いた。
……私も分かってる。
子供のころから変わらないこの格好に、そろそろ終わりを告げなければいけないことを。
「今日来るのをすっかり忘れていたよ。ありがとうね」
「……なんで知らない人が家に上がっているの」
「ああ、弦くんのことかい?あの子は私の友達の孫でね。両親を亡くしてしまって身寄りがなかったらしくてね。私が引き取ったんだよ」
「……そう」
両親が……もういないんだ。
なのにあんなに明るく振舞っているなんて強い人。
しばらくここにいることになるのか。
おばあちゃん、少しは安心だろうな。
「……少しは賑やかになるね」
「ああ。大助かりだよ本当に」
「……無理しちゃダメだよ」
「ありがとうね」
「……じゃあ、私行く」
「え、もう行くのかい?来たばかりじゃないか」
驚きを隠せないおばあちゃんの顔を見ながら、私は黙ってお母さんから渡された鞄を差し出した。