【完】『藤の日の記憶』

そういえば泉は専門学校を出たあとは、カメラマンのアシスタントとして京都で働いている。

「こないだグラビアで行ったんやけど、平等院って藤が見事らしいねん」

「平等院ねぇ」

「ほんで例の由美子ちゃんと行こうかなと思ったら、友達誘っていいかって」

「ガードかけられたな」

一誠はズケッと言い当てた。

「なぁ…おれ何でモテへんのかなぁ?」

「そんなんガツガツしとるからに決まっとるからやないか」

昔から一誠が厳しい物言いをするのを、泉は今更ながら思い出したようで、

「お前はどこ行っても生き残れそうやな」

「んな、人をゴキブリみたいに言わんといてや」

丁々発止のやりとりをする間に、弁天町の駅が見えてきた。

「ここから市岡の高校を裏に入ったとこが新しい実家や」

ビートルが信号を右折すると、左手に校舎らしき建物が見えてきた。

あれが市岡の高校なのであろう。



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