【完】『藤の日の記憶』
弁天町に再び泉のビートルがあらわれたのは、連休の初日である。
「おぅ」
「待たせたな」
見ると助手席には黒髪の綺麗な、水色のふわふわしたブラウスを着た女性が座っている。
「こいつ、おれの幼なじみで長橋一誠っていうねん」
「長橋です」
一誠はいつもの軽い会釈をした。
「取り敢えず後ろ空いてるから、カナやんの隣でえぇかな?」
後部に座っている、茶髪の子がどうやらガードでついてきたカナやんという友達らしい。
「うち、衛藤カナっていうねん、カナやんってみんな言うてるからカナやんでええわ。長橋くんは?」
「だいたい一誠やな」
「じゃあ一誠くんで決まりだね」
どうやらカナやんは仕切るのが好きな性分であるらしい。