【完】『藤の日の記憶』
乗り込むと車中は早速、一誠の話題になった。
「関東に疎開してたってホンマ?」
「まぁね、何せ西宮の家が半壊で、市役所からの指示で住めんくなって」
一誠が中学一年のとき、親が西宮に新しく家を買ったことから大阪を離れていたが、西宮の私立中学に通学していた泉との付き合いはそのままであったから、
「あの頃こいつ野球部やったから坊主頭で、今はその反動でロン毛にしよる」
と一誠は顎で運転席の泉を指し示した。
「お前ばらしなや」
「ほんまのことやもん、しゃあないやろ」
泉が露骨に嫌な顔をした。