【完】『藤の日の記憶』
小上がりの座敷に案内されると、一誠の隣に由美子が座った。
泉はトイレに行っている。
「あ、自分は天ざるね。二人は決まった?」
由美子とカナに訊くと、
「私は天ぷら定食、由美子は?」
「同じでいいかな」
「あと一人来ますんで」
「では決まりましたらお呼びください」
店員がオーダーを伝えに行く。
「ところで一誠くんさあ」
すっかり打ち解けてたカナやんが、
「泉くんってさ、もしかしてあんまりモテない?」
「まぁずっと部活で女っ気はなかった」
「やっぱりなー」
カナやんは緑茶を一口飲んでから、
「なんかね、やたらに由美子に触ろうとするんだよね」
「…何を焦ってるんやあいつは」
「その点一誠くんあんまりそういうことないよね。もしかして彼女いる?」
「今はおらんけど」
「やっぱりね。なんかどっかで余裕があるっていうか、冷静やもんね」
「そうかな」
一誠は緑茶を含んだ。