はじめまして、初恋の人
小中と付いて回った女子同士の恋愛トークは、高校へ上がるに連れてその内容も色濃くなっていった。
帰りに手を繋いだと言って頬を染めていた友達がひとり、またひとりと恋の階段を登っていく。
それをわたしは、遠目で見ているだけ。
「うーん、恋愛とかよく分からないなあ。だって、好きな人も思いつかないし」
「えー! もったいない、恋すれば絶対に変わるのに」
軽く流そうとすればするほど、香織を除く周囲の友達の熱がヒートアップしていく。つい先日、メッセージで彼氏と別れたと大泣きしながら報告をし、失恋カラオケに付き合った子まで「高校のうちに彼氏は作ったほうがいい」と力説してくる。おいおい、もう新しい人を見つけたって、早いわ。
色恋の話題が出ると、わたしは一歩下がってしまうのだ。
「ま、まあまあ! 咲はそのままでもいいんだよ? いや、むしろ他の男に取られるなんていやー!」
「あははっ、ちょっと香織、くすぐったい」
ドーン! と突進する勢いのまま抱きついてくる香織に、笑いの渦が広がっていく。恋愛トークは一旦終わりというように、話題は一組に来たという転校生の話になった。
「ね、香織」
「うん、なに?」
未だ抱きついたままの香織に目を移すと、香織はこてんと首を傾げる。
「……ごめんね、ありがと」
その言葉に、香織は何も返さなかったが、かすかに眉根を下げ、そして困ったように笑った。