はじめまして、初恋の人


 恋だの、何だの、それを耳にするたびに、わたしの気分は重く沈んでいた。

 その理由を、その変化を瞬時に察してくれるのは、いつもつるんでいる友達の中では香織だけ。
 香織とは小学校の頃からの付き合いで、わたしの『家庭の事情』というやつも知っているから、この手の話題に触れるときは気を遣ってくれていた。


「あ〜あ! 夏休みは終わっちゃったし、次のビッグイベントは体育祭と文化祭かあ」

 香織は換気目的で全開になった窓の外を眺めながらそう言った。
 彼女の視線の先には、夏休み前とは打って変わって綺麗に整備がされている白いグラウンドが見える。

「大行事が続けてあるって、大変だ」
「本当にねー。あれ、しかも咲って実行委員じゃなかったっけ?」
「……うん」

 かれこれ梅雨の頃だっただろうか。
 面倒事の多い実行委員はクラスの誰もが避けたい役割で、最終的に担任の先生が用意したくじ引きで公平に決めることになった。

 人数の関係で五組であるわたしのクラスの役員は一人だけで、三十二分の一の確率だったからまさか自分には回ってこないだろうと腹を括っていたのだけれど。

「実行委員……はぁ」

 ため息が出る。

 まさかその一の確率にわたしが当てはまるとは思わなかった。
 学校行事の実行委員なんて絶対に大変だし、今年はグラウンドの工事で体育祭と文化祭の大行事が後期に回ってきてしまったから、どちらもやらなければいけない。

 絶対にわたし、今年のくじ運悪いんだ。

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