契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「すでにアメリカをはじめ、中国や韓国などには事業所を置いているし、発展させていく。それはもちろん必要なことでやりがいはある。ただ、東南アジアを訪れたときに、困窮した国へも届けたいと思った。それがたとえ、利益にならないとしても」

 忍がこのことを公言するのは初めてだった。
 あの柳多でも、忍の具体的な計画や思いを知らない。

 忍はなぜだかわからないが、鈴音に話をすることに抵抗はなかった。
 むしろ、鈴音の左手の指輪を見れば、こうすることが自然だとすら感じる。

「こんなこと親父に話せばもちろん大反対だな」
「儲けが出ないから?」
「まあね。無駄のひとことで終わるさ。優位に立つためにと考えたところで、結局は親父を支持する人間が株主の半数以上占めているから、解任どころか経営権も握れない」

 忍が皮肉めいた笑みで言い捨てる。鈴音は忍の言動に違和感を抱いた。

(それを言ったら、忍さんだって無駄なことはしないようなことを言っていたのに)

 根本的な考え方が一緒であれば、今回の話だって本来なら同じベクトルを向くはずだ。
 そうではないということは、やはり忍は光吉とは違う部分を持っていると言うことだと鈴音は思う。

「その目標は、なにか具体的なきっかけがあったんですか?」
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