契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 コーヒーカップを片付け終え、鈴音はリビングを出た。

 ちょうどそこに洗面所から寝室へ向かう忍と遭遇し、どぎまぎとする。

 鈴音の気持ちが落ち付かないのは、ついさっき話した内容のせいでもあるが、もうひとつ理由があった。
 キッチンに立ちながら、今日から別々に寝るという宣言をメモに書いたんだったと思い出していた。

 その件については、まだ一度も触れられていない。

 忍の後に続き、俯いて廊下を歩きながらシミュレーションをする。

(別に、普通に分かれればいい。自分の部屋の前で足を止めて、「おやすみなさい」って言えばいいんだ)

 鈴音は部屋が近付くにつれ、緊張が増していく。
 とうとう自室までたどり着くと、足を揃えて顔をグッと上げた。

「……あ。あの、それじゃあ」

 忍は鈴音が立ち止まったことに気付いていなかった。
 鈴音の声に振り返り、きょとんとする。
 鈴音のメモの内容をすっかり忘れていたようで、間を置いて「ああ」とようやく気がついた。

「そうか。そうだったな……」

 忍がそう言ったまま寝室へ向かう素振りを見せないものだから、鈴音も部屋に入れず困惑する。

 少しの時間、沈黙が流れる。
 すると、忍がハッとして口火を切った。
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