契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 仕事の後は、梨々花と食事をした。
 終始「ごめん」と泣きつく梨々花を宥め、別れる時には梨々花も気持ちが落ち付いているようだった。

 とりあえず、佐々原の件は丸く収まっただろうし、梨々花も今後は発言に気をつけるはずだ。

 鈴音はホッとして家路につき、空を見上げる。

 忍の思い描く未来を聞いて、なんだか幸せな気持ちが満ちた。
 けれど、彼のその未来には、自分は存在しないと思うと悲しくもなった。

「ただいま……」

 真っ暗な玄関で呟き、電気を点ける。
 この家に帰り、『ただいま』と言うのもようやく慣れてきた。だが、まだくつろぐほどには至らない。

 自室に物を置き、タオルを持って浴室へ向かう。シャワーを浴び終えて、リビングに足を踏み入れた。
 忍がいないというのに、相変わらず鈴音はソファの端に座る。

(あー、明日は休みだ。なんだか気が抜ける)

 意識していたわけではなかったが、鈴音にとって入籍するということがひとつの山場だったようだ。それが済んだ今、脱力してしまう。

(あとは、忍さんの迷惑にならないように、妻を演じなきゃな……。会社は華やかなイメージだし、立場上、なにかお披露目パーティーみたいなことでもするんだろうか)

 一難去ってまた一難だな、などと指輪を見つめて考えていたら、いつしか目を閉じていた。
 初めは自分がうとうととしていることに気付いていたが、数分も経てば、完全に眠り落ちた。
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